「本をよく読む子にしたい」という願いは、小学生以上の子を持つ親なら、誰でも思うことでしょう。なぜかというと、本=国語に結びつくことを学校に入ってから痛切に感じるようになるからです。そんなことは、大人であれば誰でもわかっていることなのに、こどもが小学校に上がると、急に本を読まないことを気にし始めます。

「家では、テレビを見ているか、ゲ−ムをしているかのどちらかで、本はせっかく買ってもチラチラと見るだけで、すぐに飽きてしまいます・・・」というのは、よく聞くお話です。そのお母様に「小さい頃はどうでしたか?」と訪ねますと、読み聞かせをしていなかったお母様が多いようです。また、読み聞かせといっても、本に対する最初のステップは、物語を読むことではありません。

まず、1歳ぐらいから言葉の出始めとともに、ものに対する興味が芽生え始めます。そのころこどもが興味を見せる絵本といえば、自分の経験に結びついて、よく知っているものが載っている本です。例えば、ご近所に犬がいて、お散歩の途中に必ずお母様がその犬に声を掛けていたとしましょう。

1歳のこどもでも、お母様が犬のことが好きで、撫でてやったり、声を掛けていることはよくわかります。その子に犬の写真が載っている本を見せると、必ず興味を示しますし、片言で何か言おうとします。例えば、家の近くの踏切で、電車がやってくるのを「電車、くるかなあ」と、お母様と一緒に待っていた経験のある子は、電車の本を見せると必ず興味を示します。

そこには、「見たことがある」という経験と、大好きなお母様が興味を示しているものに対する興味、それと、お母様と過ごした穏やかで楽しい時間への思いが加わって、本に対する興味が芽生えるのです。

大人は、ついつい「絵本には字が書いてあって、その字を読まなければいけない」という風に思ってしまいますが、まず、幼い子が望むのは、そんなことではありません。「お母様と楽しい時間を共有したい」という気持ちです。

前例のようにこどもが興味を示したとき、たとえしっかりお話が通じなくとも「あ、ワンワン(犬)だね。お散歩の時、頭をナデナデしてあげたね。この犬もナデナデしてあげようね。」と、絵本の犬を一緒に撫でてあげると、自分の体験を通して絵本の世界を実感し、お母様とお散歩したことをイメ−ジしながら、お母様との楽しい時間を思いだし、その瞬間を感じているのです。

そして、一緒に絵本を見ているこの時間が嬉しくてなりません。だからこそ、同じ本を、何度も何度もお母様に持ってきては、同じペ−ジを開いて、一緒に見ようと誘いかけてきます。そのようなやりとりが充分できるようになると、こどもがひとりで、本を引っぱり出し、お母様と一緒にしたように、写真の犬を撫でながら、ブツブツとお話をしている姿を目にするようになります。お母様が絵本を見ながら聞かせているお話や、こどもに対して話しかけている言葉をまねをしながら、お母様にしてもらっているように一人で黙々と話しています。

このように、お母様がこどもに絵本を読み聞かせる時間というのは、単に、絵本に興味を持たせるという意味だけでなく、こどもの心を落ち着かせ、お母様から受ける愛情を充分に感じるからこそ、次へのステップへと発展していくのです。

絵本への興味付けの代表的な絵本は、日常生活に関するものです。例えば、ご挨拶、遊び、生活習慣に関わる内容が、可愛らしい絵と共に描かれているものです。そういった内容であれば、お母様としてもやりとりしやすいのではないでしょうか。

絵本を通して、お母様と楽しい時間が持てるようになると、本が好きになり、いつもいつも同じ本ばかりを持ってくるようになります。もっと言うと、同じ本の同じペ−ジばかりを出してきて「読んでほしい」と意志表示をします。お母様としては、「どうして同じ本ばかり」と思うところですが、その本を通してのお母様とのやりとりが楽しかったからこそ同じ本を持ってくるのです。そして、その絵本を読んでもらう度々に楽しいイメ−ジを膨らませます。親としては、一言一句覚えてしまうほど読まされるので、嫌気がさしてくるでしょうが、お母様との共通の話題や思い出やイメ−ジの世界に満足でき、言葉の理解が進むと、次の対象(絵本)へと移っていきます。

例えば、いろいろな遊びが描かれている絵本があるとします。それまでは、大好きな車が乗っているペ−ジしか興味を示さなかったのに、ボ−ル遊びをした経験が増えると、そのペ−ジにも興味をしめすようになり、「ボ−ル、ポ−ンポ−ンね」と話しかけていたペ−ジも、言葉の理解が進むと、ある程度の文章も聞けるようになり、そのペ−ジの文を読むと、文の内容が楽しめるようになります。

そのような繰り返しの中で、イメ−ジを広げ、文章を理解し、目新しい本でも「何が書いてあるんだろう」「どんなお話なんだろう」と興味を持って、じっくりと読み聞かせが楽しめるようになります。上記に挙げさせていただいた例は、1〜3歳にかけての絵本好きになる過程ですが、小学生の子でも、本をあまり読まない子には、まず本人が経験している内容や、興味のあるものが載っている本を選んで、読み聞かせをしてあげましょう。

自分が経験していることや興味のあることに対しては、イメ−ジを広げやすく、お話の内容が自分のものとして捕らえやすいからです。そして、読み終わった後、お母様と意見交換をしたり、お母様から関連することを詳しく説明などしていただけると、もっとわかりやすく、興味の幅が広がることでしょう。